ミュージカル『ジャックザリッパー』と残暑
その日は、暑さが戻ってきた日だった。
日生劇場にて上演中の『ジャック・ザ・リッパー』を鑑賞してきました。
18時30分からの公演で観劇してきました。
2階席から観る舞台の景色は圧巻でした。
19世紀のイギリスの街並みが再現されていたからです。
日生劇場といえば、建築家村野藤吾さんの作品でありますが、
5月の『ブロードウェイと銃弾』ぶりですね。(年末にまとめ書きます。)
私個人ですが、帝国劇場よりも日生劇場が好きです。
帝劇は新しさも感じますが、日生は年季と独特さがあります。
アリの巣のような劇場空間で、
『上演される演劇は全て、卵から生まれ変わり人が観て作品になる』と言うべきだろうか、そんなメッセージに近いものが
あるのではないかと感じます。
このミュージカルを演出されたのは白井晃さん。
来年上演されます、『マーキュリーファー』の演出をされます。
華やかなロンドンの町並みではなく、ダークな暗闇に包まれた舞台装置も見所がありました。
役者陣もその一つでした。
何よりもそれぞれの『声』が非常に印象に残っております。
小野賢章さん演じられる医者ダニエルと殺人鬼ジャック役の加藤和樹さんの声の掛け合い。
松下優也さんの哀愁漂う刑事アンダーソンの泣き声。
ダニエルを思う女性グロリア役のMay`nさんの叫び声。
アンダーソンを気にかけるエリアンナさんが演じる娼婦ポリーの艶やかな声。
目先の金に眩む記者モンローを演じる田代万里生さんの笑い声。
何よりも、ジャックの心に染みつくような声の響きが会場に轟く。
観劇中は例えるなら『ベイカー街の亡霊』をどこか思い出しました。
ロンドンの街並みに降り注ぐ雨と炎。鮮やかな街並み。くすんだ街並み。
美術、衣装の力です。
オーケストラも生だからこそ勢いがあり、
ロックの要素とポップの要素が融合したものになっておりました。
明と暗を彷徨う人物たちへの光の当たり外し。敵なのか、味方なのかを
観ているものは感じられなくなる仕掛けがされていたのではないかと思います。
最後は『 』と言う感じです。この作品は問うています。
『ジャックは皆の心の中にいるのではないか』そんな気もします。
誰しもが殺人鬼で誰かのどこかを殺しているのではないか。
道外れたものだけがたどり着く場所が、この作品では描かれていると感じています。
人は何かに逆らい、何かを追い求め続けていくことが、
人間の宿命ではないでしょうか。
にしても暑い日でした。